供給不足のインダストリアル市場で注目される新たな動きとは?
今回は南カリフォルニアのインダストリアル市場の最新動向をご紹介します。このエリアでは倉庫や物流施設の需給ひっ迫が深刻化する中、供給不足を緩和する新たな動きに注目が集まっています。
米国最大級の貿易港であるロサンゼルスとロングビーチ両港が存在する南カリフォルニアでは、パンデミック以前からインダストリアル物件の空室率が記録的に低い状態が続き、需要に対応すべく建設ラッシュが見られました。そのような最中、2020年にコロナによるロックダウンが発令され、マスクなどの保護具の輸入や巣ごもり需要によるオンラインショッピングの利用が増え、それと並行してサプライチェーンの混乱の影響もあり、物流倉庫の需要は更に拡大しました。
このように倉庫や流通施設などの需要がこれまでになく急増する一方で、土地や建設の制約から思うように供給が需要に追いつかない状態が続き、インダストリアル物件の空室率は急落し、賃料や購入価格が高騰し続けています。
2022年第2四半期の空室率と前年度対比は以下の通りです。
(このエリアでは5%を切るとかなり供給が十分でないと言われています。)
- Los Angeles: 1.7% (前年同期比:-7%)
- Orange County:0%(前年同期比:-0.8%)
- Inland Empire:6%(前年同期比:-1.2%)
(Data: CoStar)
また、リモート勤務で需要薄になったオフィスとインダストリアル物件の賃料を比べると、大幅な差があることが分かります(グラフ:オフィス&インダストリアル賃料年間上昇率ご参照)。このグラフでは、インダストリアル物件は昨年第四半期より、Los AngelesとOrange Countyともに10%を超える年間上昇率を記録しており、特に限られたインダストリアル物件は賃料が高騰しています。
このように需給ひっ迫が続く中、オフィスビルなどの他の物件タイプを購入し、最新型のインダストリアル物件に改築するデベロッパー(開発業者)に近年注目が集まっています。
Los Angelesの中でも日系企業が多く拠点を構えるTorrance市周辺では、インダストリアル物件に改築されるオフィス物件の多くはクラスBもしくはCで、オフィスとしての賃料は一平方フィート当たり2ドル前後でした。
こうして改築された物件は、クラスAのインダストリアル物件賃料として10,000~50,000平方フィートの物件で平方フィート当たりの月額単価1.75ドル~、50,000平方フィート以上の物件は2ドル~で取引され、改築前とほぼ同額で推移してると言われています。インダストリアル物件の賃料は、供給と需要が安定するまで強い上昇率で上がり続けるとも見られており、魅力的な投資先として改築に乗り出すデベロッパーが増えています。
Los Angelesだけで2018年~2021年の間に210万平方フィートに上るオフィス物件がインダストリアル物件に改築されたと見られていますが、それでもまだ土地区画の規制やコロナによる建設の制限で、まだまだインダストリアル物件の供給が需要に追い付かず依然として空室率が低い状態が続いています。
今年に入り、改築の動きがさらに加速し、南カリフォルニアで今年着工もしくは発表された改築プロジェクトは12件に上ります(Data:JLL)。
それでは、直近で公表されたLos Angelesにおける改築事例をご紹介します。
事例1)
不動産会社Atlas Capitalは今年6月、合計94,000平方フィートに上るクラスCのオフィスキャンパス(計12物件)を3,980万ドルで購入しました。クラスAのインダストリアル物件に改築する予定です。
事例2)
Brookfield Propertiesは今年2月、ロサンゼルス港近くに構えるクラスBの2階建てオフィスビル(125,000平方フィート)を購入しました。近代的なクラスAの物流施設に改築する予定です。
事例3)
今年1月、クラスCのオフィスビルが5,070万ドルで購入されました。買い手は非公開となっていますが、大型トラックやトレイラー用の駐車場も完備した304,000平方フィートに上る最新型インダストリアル物件に改築される予定です。
(住所:5900 Cherry Avenue, Long Beach)
続いて、Orange Countyの事例をご紹介します。
事例4)
Amazonは昨年末、Bank of Americaがコールセンタとして使用していたクラスBのオフィスキャンパスを1億6,500万ドルで購入しました。130,000平方フィートを超えるオフィスキャンパスは倉庫や配送センターに改築される予定です。
事例5)
あるジョイントベンチャー企業は、昨年4棟からなるクラスBのオフィスビル群を4,470万ドルで購入しました。223,000平方フィートに上る最新のインダストリアル物件に改築される予定です。
またLos Angelesでは、インダストリアル物件への改築に並んで、ライフサイエンスの最先端を走るラボやR&D施設への改築も盛んになりつつあります。今年第1四半期中にラボやR&D施設への改築が進んでいる案件は667,000平方フィートに上りました。これは、前年同四半期から面積比で337%の上昇で、いかに白熱しているかが分かります。
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