激動の米国賃貸マーケット 2021年夏【前編】
コロナ禍で住宅マーケットに起きた3つの変化
1|家賃相場の季節柄変動パターンが変化
米国では賃料が年々上昇するのが一般的で、時期別に見ると春先から賃料が上がり始め、人の移動が最も多い夏にピークを迎え、秋冬は人の動きが少ない事から賃料は落ち着くと言うサイクルを繰り返します。夏の上昇に比べて秋冬の下降は小さいため、夏の上昇が強いと冬で下がりきらず、翌年は高めの賃料相場から推移し始める事となり、これが蓄積することで年々賃料が上昇しています。
本来であれば、2020年3月以降、下記のグラフの点線のように推移すると予測されていましたが、全米平均で見ると、実際の相場動向は紫の実線が示すように、一旦下落傾向となり、上昇するはずだった夏場に上昇できず、その後、秋・冬で更に下落となっています。ところが2021年に入るや否や、急上昇を見せ、春の終わりには、なんとパンデミックが無かった場合の予測値を大幅に上回る所までグラフが伸びており、異常な速さでマーケットが上昇しました。
従来の規則正しい上昇パターンが大きく乱れ、よもや下落をし、またそこからの急上昇と、賃貸マーケットが激動している事がわかります。
2|賃貸マーケットの在庫(物件数)の変化
全米各地、特に中小規模の都市では、驚くほど賃貸物件数が減少しています。少ないながら物件があったとしても、数日で全て埋まってしまうのが今年は日常的な現象となっています。例年、人の移動が少ない冬場の物件数と比べても、この夏は物件数の多いはずの都市圏でさえ空き物件が減少しています。
3|賃貸契約の難易度が変化
パンデミックにより家賃の未回収問題が多発しましたが、その経験から、貸し手側はより確実に賃料回収できるよう、入居審査を厳重化する動きが出てきています。以前は、企業から雇用証明書とパスポート・VISAのコピーがあれば入居できていたような物件でも、最近は入居者本人の収入証明や銀行残高証明を求められたり、企業から発行のレターではなく貸し手側が指定するフォームによる雇用証明を求められるなどの例が挙げられます。クレジットヒストリーが無い「駐在員」という立場が今まで以上に弱くなっています。
また、中途解約の条件も厳格化が見られ、中途解約自体が認められなくなったり、中途解約条項はつくものの、退居通知のタイミングが以前より一か月早く設定されたり、ペナルティの金額が以前より家賃一か月分増えたりなどの変化が散見され、最近では中途解約を契約書内に記載せず”ポリシー”として付帯させるという対応をする賃貸アパートも多々出てきています。その結果、中途解約の条件を規程で厳密に決めていらっしゃる企業のご赴任者は、入居できなかったり、契約更新ができないなどの事例も起きています。
ポストコロナの異常事態
日系企業駐在員向け賃貸住宅マーケットの動き
いずれの都市も程度の差こそあれ賃料相場は上昇傾向にあったものの、パンデミック後には下落する都市が散見されました。マンハッタン、サンフランシスコ、ボストン等、下落が見られたのは主に賃料が高額な大都市圏で、リモートワークの普及で賃料の低い郊外や他州へ人が移動する動きがあったことから、高額エリアでは空室が増え、賃料下落が起きました。
ところが、今年に入ってからの半年強の間で、昨年下落があった都市はほとんど回復し、従来、一般的な賃料変動率は1年で3%前後なのに対し、前代未聞の賃料上昇が起きています。ここから秋冬で大幅に下落するとも考えにくく、来年2022年の相場がどのように着地するのか気になるところです。
各地における家賃高騰の主な理由
ここまで強い賃料上昇が起きている背景には、「急激な需要増」、「売買の活況」などがあります。ワクチン接種が進み、今年に入ってから学生を含む人の移動が活発化し、春頃から家探しをする人が急に増えました。
駐在員と学生とでは賃料価格帯に大きく差があるため、従来であればそこまで駐在員マーケットへの干渉は見られないのですが、あまりに物件が不足しているため、大きな大学がある都市では(例えばボストンやノースカロライナ州のローリー)、物件不足に拍車がかかっている感があります。
そして、売買マーケットにおいては、パンデミックにより自宅で過ごす時間が増えた事から人々の「自宅における快適さ」に対する期待値が上がり、同時に住宅ローンの低金利という追い風もあり、全米で売買が非常に好調です。
売買があまりに好調なことから、従来であれば賃貸されていたコンドミニアム・一戸建てなどが、売買マーケットへ流出し、賃貸物件不足の大きな要因となっています。一般には売買が好調でも必ずしも賃料上昇に直結する訳ではないのですが、加熱し過ぎのマーケットが賃料を引き上げている状況です。また、家賃未納世帯を貸主側が退去させられない事で部屋が空かないのも賃貸物件の物件不足の理由の一つとなっています。
この様に、需要に対して賃貸物件の供給数が少ないことから、多くの都市で、物件を巡る競争が発生しています。
そういった都市では、募集賃料に対し、申込者が物件確保のために、賃料を上乗せして申し込むため、募集賃料より高い賃料で契約になります。こういったマーケットでは、状況を十分に把握できていない日系企業駐在員は、なかなか物件を勝ち取れず、住宅探しが長期化してしまう傾向があります。
今後の見通しについては、従来であれば新学期が始まると落ち着きを取り戻す、売買市場の活況がいつまで続くか、秋以降の賃貸需要が従来通り落ち着くのか、などがポイントになってくると考えられます。
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